知恩院三門と迦陵頻伽~お能の”天人”を感じる【真花塾にほん伝統文化プロジェクト】

知恩院三門に拝観できると聞き、自分にとっての二度目の訪れとなりました。

三門とは「空門(くうもん)」「無相門(むそうもん)」「無願文(むがんもん)」の、悟りまでの3つの解脱の境地(三解脱門)を意味するそうです。

仏堂には、宝冠釈迦牟尼仏像(ほうかんしゃかむにぶつぞう)と十六羅漢像、造営奉行である五味金右衛門夫妻の木像が収めてある白木の棺があります。

仏像と十六羅漢像は、夜の闇で光に照らされ、より眼差しが迫って感じられました。

見どころは天井画

飛龍、天女、そして迦陵頻伽(かりょうびんが)が描かれて、まるで荘厳な音楽が聞こえてくるかのように、浄土という別世界に引き込まれるような気がします。

それもそのはず、迦陵頻伽は鳥の名前で、とても美しい声で鳴くのだそうです。仏典では仏の声と例えられてるとのことです。日本では、この知恩院三門の天井画のとおり、人間の顔を持った鳥の姿で表されることが多いです。ふくよかなその女性らしい姿もなかなかチャーミング!

能《羽衣》には、この迦陵頻伽が謡われています。

迦陵頻伽のなれなれし 迦陵頻伽のなれなれし 聲今更に僅かなる

いわゆる天の羽衣伝説です。白龍という漁師に天の羽衣を取られたまま返してもらえず、天に返ることができない。今までなれ親しんでいた、天に住む鳥たち(迦陵頻伽)の声ももうわずかにしか聞こえない。天上界が懐かしい、と訴える天女の姿です。

また、《吉野天人》ではこのような謡も。

少女(をとめ)の姿現して 必ず此処に来たらんと 迦陵頻伽の声ばかり 雲に残りて 失せにけり 雲に残りて失せにけり

吉野山の美しい桜に惹かれて地上に降りてきた天人が、夜になったら必ずまたこの桜の下に戻ってきて、月の光に浮かぶ舞をお見せします、と都人に約束する場面。

その天人が、美しい語り声だけを残して一旦去っていく様子が、迦陵頻伽というフレーズからよりイキイキと伝わってきますよね。

ちなみに西洋では、航海する船乗りを美しい声で魅了する、人間の顔を持つ鳥(のちに魚とされるようになり人魚伝説につながる)のお話があります。その名はセイレーン

実は、その声に魅入られてしまった船乗りは我を忘れ、そのうちに遭難して船も沈んでしまうと言われており、「決して聞いてはいけない声」とされていました。「警告音」のイメージもある「サイレン」という英語の語源にもなっています。

人間の顔を持った鳥。そして美しく人の心をひきつける声、という点では、伝説の生き物としての興味深い共通を感じられます。

ところで、この知恩院三門は、高さ24メートル。現存する日本の寺院の三門の中でも最も大きいもので、さらに知恩院そのものが東山三十六峰の華頂山にあることを考えると、相当な高さ。

三門からの眺めは圧巻です。木々の間から京都タワーも望めます。

大きく急な階段を上り下りして拝観するのですが、だれもが一生懸命に足下を見て進むからか、少しぴりっとした空気が漂うのも印象的です。

夜間拝観やライトアップといえば、紅葉や庭園を思い浮かべる人が多いと思いますが、このような楽しみ方もよいものです。

何よりも、目で見る美しさが、実際には聞こえずとも音楽として受け止めることができるのは、当時の人々の信仰や願いに思いを馳せることができますね。