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2019年3月2日

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御霊神社(京都市西京区)~橘逸勢”遺されていない”三筆

御霊神社は、同じ名のものが日本各地にあることでよく知られている。御霊信仰という、ある特定の人物の御霊や怨霊を鎮める目的で創建されたものや、5つの神(つまり「五霊」)を祀るもの、先祖の霊を「御霊」として祭るものがあるという。

ここ桂離宮のすぐそばにある御霊神社は、別名下桂御霊神社。祭神は三筆の一人、橘逸勢である。神社の創建からご由緒、そして、彼が何者で歴史上なぜ「御霊」とされるようになったのか、どのような人生を送った人物であるのかなどについては、下桂御霊神社をはじめとする多くの案内文(サイト)を参照いただければと思う。

実は、彼自身の手によるとはっきりとわかっているものはない。すべて「伝橘逸勢」とされ、真跡だとはっきりとわかる遺墨は全くのこされていない。ただし能書家であること、そして特に隷書(楷書)にすぐれていたことは、「文徳実録」に記述がある。

神社の能舞台には、彼によるとされる「伊都内親王願文」が掲げられている。くわしい解説つきで非常にわかりやすい。

すぐそばには、書聖を祀る神社とあってか、書道教室に通う子どもたちの習字作品が飾られている。書聖と子どもたち、そして平安初期を生きた官人と、現代を生きる児童たちのコントラストも新鮮であった。

境内には、この「書」だけではなく、もう一つ興味深いものがあった。奉納された能の番組である。

うっすらと《羽衣》が読み取れ、同時におそらくこの能舞台で、実際に観能が行われていたことがうかがえる。
(ちなみに先述の「願文」などは橋掛りに。)

この大木は樹齢400年のムクロジ(無患字)。種子は羽根つきの羽の玉に使われる木だそうだ。秋に訪れたときの様子も楽しみである。

最後に、ご利益をご紹介しよう。

合格祈願、書道上達祈願、就職合格祈願・・・。人生の節目にぜひ訪れていただきたい。

なお、『日本文徳天皇実録』には、逸勢の性格は放胆で、細かいことには拘らなかったとあるそうだ。大胆不敵に生きたであろう彼を思いつつ、子どもたちが境内で遊ぶ声を聞きながら、心静かに参拝するのも一興である。