真花塾にほん伝統文化プロジェクトカテゴリー記事の一覧です

2019年3月2日

古文を訪ねる, 真花塾にほん伝統文化プロジェクト, 講師ブログ

桂離宮~四季の茶室に秘められた幾何学【真花塾にほん伝統文化プロジェクト】

桂離宮庭園は、郊外の住宅地に突如として広がる。いや、もとはのどかな瓜畑にあったのが、いまは「周りが住宅地になった」というべきである。

ガイドの方に随い、広い池泉回遊式庭園をぐるりと廻る。とても丁寧に、わかりやすく笑いも交えつつ、桂離宮の長い歴史と保存作業についても、とても詳しく解説してくださるので、ぜひただの観光としてではなく、庭を愛で愉しむという純粋な目的のために、これからも多くの人たちが敬意を持って訪れる場所であってほしい。

さて、お茶好きならきっと誰もが、趣向を凝らした4つの季節それぞれの茶室に関心を寄せることだろう。

だが、その前に外腰掛から。

門から飛び石伝いに渡ると、茅葺寄棟造りの、まるで肉厚の茸のような屋根を持つ、待合い腰掛けがある。実際に腰掛けてみると、目の前にはにょっきりと蘇鉄。薩摩藩の島津家からの献上だそうで、当時は大変珍しかったらしい。冬だったためにそれらの大きな蘇鉄たちには覆いがしてあったが、皮付きの丸太がそのまま使われている外腰掛の柱と相まって、しずかな力強い空間になっている。

州浜を見ながら、まずひとつめの茶室、松琴亭に向かう。

こちらも茅葺入母屋造り。その前にある切石の橋は多くの人の印象に残るものであるが、本当のところは、一生懸命に夢中になって渡るうちに無心になり、自然と席入りにふさわしい精神が作られる効果もあるのだろう。

「松琴」という銘は拾遺和歌集巻八雑上の

琴の音に 峯の松風 通ふらし いづれのをより 調べそめけむ

に由来するとのこと。

松風といえば、釜と沸く湯のあの音を、すぐに思いうかべる人も多い。桂離宮庭園の「冬」の茶室といわれるが、これは実は意匠だけにとどまらない。庭園のなかで、冬至の月の出の方位に造られていることが関係している。

賞花亭

「峠の茶室を思わす」とされる、夏の茶室である。小高い丘を思わせる高台から、庭園全体がひろびろと見渡せる。2018年の大きな台風による倒木で、「桂離宮庭園からどこを見ても、絶対にまわりの住宅や現代建築物はない」といえていたのが、あるお宅が少し見えてしまうようになってしまった。だが、自生する木を長い年月をかけて育て、またそれを覆い隠し、つくられた時代の風景そのままを維持するように計らわれている。ガイドの方が「庭園は生きている。庭師は、木を植える段階からすでに”数年後がどうなるか”が見えているのだ」とおっしゃっていたのが印象的である。

笑意軒

茅葺寄棟造りの屋根に杮葺の廂がついてある。これは田畑を耕す農夫をみることのできるのが特長のひとつだが、季節は夏。吹き抜ける風と、夜、手水鉢に浮かぶ月を愛でる時間は至福であることだろう。

月波楼

中秋の月の出の方向と一致する、秋の建物である。土間の右手からは池を望む形でとても見晴らしがよい一方で、左手からは池は隠れて見られない。このように風景の変化だけではなく、天井には船底を思わせる化粧屋根裏の竹の垂木が。見上げる人たちからも静かなどよめきが上がる。

ちなみにこの月波楼の方向には、書院群がある。とくにその古書院の二の間の正面に、月見台がつくられている。同じく中秋の建物だが、その名だけでなく、桂離宮庭園の敷地のほぼ中心に、正確に設計されていることからも、月見の名所を意識して作られていることがわかる。それらが高床式であるのは、かつてこの庭園に流れる水が桂川に通じているために大雨などで増水した際にも耐えられるように考えられたとのことだ。

桂離宮の「桂」は「月桂」の故事にちなんでつけられた地名のとおりである。庭園は、このように「月見」をメインにしながらも、それぞれに趣向をこらした茶室と書院群がならぶ。

桂離宮は「月の出」の方向をそれぞれ結んだ線が描く三角形と、月見台を中心に描かれる円とが融合した造られかたである。しかしそれだけでなく、茶室や書院、門や庭石のそれぞれに幾何学的デザインが多用されている。「鳥の目」で見る巨大な幾何学と、「虫の目」で見る繊細な幾何学、そして「魚の目」というべき、時代の変化に応じてきめこまかくなされる庭園の手入れや管理も、非常に興味深い。

2018年12月1日

真花塾にほん伝統文化プロジェクト

知恩院三門と迦陵頻伽~お能の”天人”を感じる【真花塾にほん伝統文化プロジェクト】

知恩院三門に拝観できると聞き、自分にとっての二度目の訪れとなりました。

三門とは「空門(くうもん)」「無相門(むそうもん)」「無願文(むがんもん)」の、悟りまでの3つの解脱の境地(三解脱門)を意味するそうです。

仏堂には、宝冠釈迦牟尼仏像(ほうかんしゃかむにぶつぞう)と十六羅漢像、造営奉行である五味金右衛門夫妻の木像が収めてある白木の棺があります。

仏像と十六羅漢像は、夜の闇で光に照らされ、より眼差しが迫って感じられました。

見どころは天井画

飛龍、天女、そして迦陵頻伽(かりょうびんが)が描かれて、まるで荘厳な音楽が聞こえてくるかのように、浄土という別世界に引き込まれるような気がします。

それもそのはず、迦陵頻伽は鳥の名前で、とても美しい声で鳴くのだそうです。仏典では仏の声と例えられてるとのことです。日本では、この知恩院三門の天井画のとおり、人間の顔を持った鳥の姿で表されることが多いです。ふくよかなその女性らしい姿もなかなかチャーミング!

能《羽衣》には、この迦陵頻伽が謡われています。

迦陵頻伽のなれなれし 迦陵頻伽のなれなれし 聲今更に僅かなる

いわゆる天の羽衣伝説です。白龍という漁師に天の羽衣を取られたまま返してもらえず、天に返ることができない。今までなれ親しんでいた、天に住む鳥たち(迦陵頻伽)の声ももうわずかにしか聞こえない。天上界が懐かしい、と訴える天女の姿です。

また、《吉野天人》ではこのような謡も。

少女(をとめ)の姿現して 必ず此処に来たらんと 迦陵頻伽の声ばかり 雲に残りて 失せにけり 雲に残りて失せにけり

吉野山の美しい桜に惹かれて地上に降りてきた天人が、夜になったら必ずまたこの桜の下に戻ってきて、月の光に浮かぶ舞をお見せします、と都人に約束する場面。

その天人が、美しい語り声だけを残して一旦去っていく様子が、迦陵頻伽というフレーズからよりイキイキと伝わってきますよね。

ちなみに西洋では、航海する船乗りを美しい声で魅了する、人間の顔を持つ鳥(のちに魚とされるようになり人魚伝説につながる)のお話があります。その名はセイレーン

実は、その声に魅入られてしまった船乗りは我を忘れ、そのうちに遭難して船も沈んでしまうと言われており、「決して聞いてはいけない声」とされていました。「警告音」のイメージもある「サイレン」という英語の語源にもなっています。

人間の顔を持った鳥。そして美しく人の心をひきつける声、という点では、伝説の生き物としての興味深い共通を感じられます。

ところで、この知恩院三門は、高さ24メートル。現存する日本の寺院の三門の中でも最も大きいもので、さらに知恩院そのものが東山三十六峰の華頂山にあることを考えると、相当な高さ。

三門からの眺めは圧巻です。木々の間から京都タワーも望めます。

大きく急な階段を上り下りして拝観するのですが、だれもが一生懸命に足下を見て進むからか、少しぴりっとした空気が漂うのも印象的です。

夜間拝観やライトアップといえば、紅葉や庭園を思い浮かべる人が多いと思いますが、このような楽しみ方もよいものです。

何よりも、目で見る美しさが、実際には聞こえずとも音楽として受け止めることができるのは、当時の人々の信仰や願いに思いを馳せることができますね。

2018年11月17日

真花塾にほん伝統文化プロジェクト, 裏千家茶道

新プロジェクトへ向けて!【お稽古日記~裏千家茶道編】

現在、高校生向けのネット塾・真花塾は、古典をつたえる・日本の良さを改めて情報発信していくという目標を決めて準備に取り掛かっています。スタッフも増員!新プロジェクトに向け、代表である吉川自身もますますお稽古に力を入れています。
日本の伝統を伝えるために、私たちができることは何か?それは「いま」に伝統を取り入れて、その良さを体感することにあります。そしてその楽しさを自分の言葉でほかの人に伝えていけたら・・・。
今回は、そんな吉川のある一日をご紹介いたします!

いざ炉開き。お茶の“正月”で気分を一新

炉のお稽古でした。茶道の正月ともいわれる11月、気持ちも新たに華やぎます。

炉の茶釜に湯が沸いたほんのり暖かい四畳半。初入りして先生にご挨拶すると、あぁ、また新しい一年を精進しようと清々しい気持ちになります。

掛物は「」。「かん」とよみます。「新しい節目、はじまり」という意味なのだそうです。

さて、このように始まった霜月の茶の湯ですが、もちろん変わらないこともあります。

それは所作。半年ぶりとはいえ、普段どおりの炉の点前。そして客の作法も普段どおりに、楽しく粛々と進みます。

そして普段どおりといえば、茶の湯に親しむ人ならきっと誰もが心を砕くもの、それは「茶杓の銘」ですよね。

え?「茶杓の銘」?何それ?のあなたに!

茶杓(ちゃしゃく)とは、お茶の器や茶入れに入っているもので、抹茶をすくうための道具を呼称しています。その呼称やその銘がついた道具を季節や趣向ごとに改めて、使い分けることに味があります。

また、薄茶の場合は棗と茶杓を、お濃茶の場合は茶入・仕服・茶杓を客に拝見に出し、皆が手に取って目で見て、ともに味わうことができます。

茶杓の銘には、茶杓を削った人の感性や、その人自身を表すといわれ、拝見する客は作者の持ち味を感じ取るようにします。感性と感性のぶつかり合いとも言えるのではないでしょうか(^^♪

なぜなら月ごとに銘はあります。そして、お稽古では由緒ある茶杓を、実際に誰もが使えるとは限りません。そんなときこそ、自分の点てた茶をより楽しんでいただきたい。だからこそ、「銘」を知って使いこなしたい!という思いがわいてきます。

例 11月の銘

山の錦(やまのにしき)、落穂(おちぼ)、野菊(のぎく)、小倉山(おぐらやま)

楓(かえで)、落葉(らくよう)、紅葉狩(もみじがり)、閑居(かんきょ)、錦の山(にしきのやま)
唐錦(からにしき、)吊るし柿(つるしがき)、梢の錦(こずえのにしき
)などなど

私は毎回、お稽古場へのバスに揺られながら、「今日はどんな銘にしようかな」と一生懸命考えながら稽古に向かっていますが、きっと皆さん、稽古のときは心もアタマも全力投球なのかもしれませんね。(^-^)

私はこの日、「梢の秋」を思いました

「こずえ」という音には「すえ」、つまり「末」という漢字もあてられます。(恐るべし漢字のチカラ!)だから「秋の末」ともなります。掛詞なのですね!ちなみに陰暦9月の言葉なので、新暦にあてはめると9月下旬から11月上旬となります。ちょうどこの時期にぴったり!

朝晩の冷え込みもきりきりとしはじめで、もうまもなく冬になるぞ、という感じ。とくに私の住んでいる三田市は、散り葉の段階とはいえ、とってもとっても寒くって、早朝から稽古に向かうときのその感覚やや木々の様子も心に浮かべました。
言葉は意味だけではなく体全体で受け止め、発することが大事!
茶杓の銘は、なんだか「知識」「教養」を問われる感じがしておっかないと感じる人も多いと思います。私も若いころはとくにそう思っていて、知らないと恥ずかしいからとノートを作って必死で丸暗記したり、実際には自分で調べたり感じたりしたこともない言葉を「ほかの人が言っていたから」「知っているから」という理由だけで口にしたりしていました。

でも本当はそういったものではなくて、自分の五感と真心で、茶席をともにする皆さんを思いながら、お伝えしたいと思うようになりました。

お道具も稽古も知識教養も、現代ではごく一般の人がいざ自分もやろう!と思っても、そう簡単には本格的にできるものではありません。でもその心は、日本の財産として受け継いでいきたいものですね。

2019年スタート!真花塾の「にほん伝統文化プロジェクト」
真花塾では、2019年から「にほん伝統文化プロジェクト」を始動いたします。
そのひとつとして、おもに茶杓の銘と掛物、陰暦のことばを解説しながら、多くの人に楽しんでいただき、役立てていただけるコンテンツを作ります。

多くの「これこそ日本!」と思える素晴らしい文化を伝えていく所存です。

ぜひ「こんな情報があったらいいな」「ことばや背景を知りたいな」というリクエストもお待ちしております。学校茶道に励む中高生や茶道部の顧問の先生も応援!

茶の湯に親しむ者の一人として、塾長吉川もますます稽古に励んでまいりたいと思っております。

【写真の菓子】御製:西村清月堂(兵庫県三田市) 銘:木枯し